作品の題名は仮題である。横たわる人間に、妖怪のようなものがとりついている。まるで魂を吸い取っているかのような不気味な絵だ。背景には描きかけの間の抜けた牛のようなものや、仮面か骸骨のようなものもうっすら描かれているが、何を描いたものかわからない。菊地はこうした名状し難い不気味な墨描を何点か描いていて、この作品とほぼ対になる大きさの、枯れ木に人間が蹂躙されている作品(<悪夢(枯れ木)>)や、年記のある<墨シュール>(1950年、喜多方市美術館)などがある。
古来の地獄絵や餓鬼草紙といった古典の影響も頭をよぎるが、現実の世界で起こった、空襲で眼をおおいたくなる数々の死体を目撃した体験が、画家をつき動かしたと考えるのが自然かもしれない。
人間の暗部にどうしても目をむけずにはいられなかった画家は、仮面をモチーフに緊迫した人間像制作へと突き進んだ。
ー堀 宜雄(福島県立美術館学芸員)ー(絵の始まり 絵の終わり/下絵と本画の物語 カタログから)
3年生を連れて作品の鑑賞授業へ。この「悪夢」について、他のどの作品よりも若い人たちが喰いいるように、間近で見つめているのがとても印象的でした。