ブラジルの国名は「赤い木」という意味を持っていて、ヨーロッパで染料として用いられたインド原産の蘇芳(スオウ)の木のポルトガル名です。パオブラジル、またはブラジル木とも呼ばれています。蘇芳(スオウ)は日本において、飛鳥時代に中国から輸入されて以来、貴重な赤の染料として広く用いられていました。当時の赤い布は金や銀、珊瑚、香料などと同じで、貴族や王様への貴重なみつぎものでもありました。
パオブラジルは、主にブラジル北東部の海岸線に自生してましたが、16世紀頃になると、ポルトガルやフランスの王様や海賊たちはインディオたちを使ってパオブラジルを伐採させ、ほとんどを切り尽くしてヨーロツパに持ち去ってしまったと言われています。
パオブラジルは心材から紅色色素(ブラジリアン)が得られ、マラリアの薬にもなり、またその強度から絃楽器の弓に最良の材料となっています。
近年、パオブラジルは過度の伐採ににより、そのほとんどが40年前に消滅してしまったとも言われ、絶滅の危機に瀕しています。サンパウロの街角に見られるパオブラジルと呼ばれるものは、一見同じように見えますが違う種類のものと言われています。
パオブラジルの幹の切断面、中央の芯部から紅い色が採取できます。
パオブラジルは媒染剤によりピンク、赤、オレンジ、の他に何種類かの色味を出すことができます。
パオブラジルの染料で染めた和紙。パオブラジルの木屑を煮詰めて染料を作り和紙へ塗布。和紙の種類により全く色合いが異なる。煮詰めた染料は深紅色、まさに木の心臓の色のようです。
した:むかって右は新潟県高柳の手漉き楮紙、左下は洋紙のワトソン。乾くと淡いピンク色になる。
した:愛媛県大洲手漉き和紙